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東京地方裁判所 平成5年(ワ)949号 判決

千葉県市川市鬼高二丁目二六番三号

原告

守弘移植重機株式会社

右代表者代表取締役

齋藤守弘

右訴訟代理人弁護士

野上邦五郎

右訴訟復代理人弁護士

杉本進介

冨永博之

静岡県富士市伝法八〇七番地の三

被告

有限会社日本緑化

右代表者代表取締役

大木國男

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主文

一  被告は、別紙物件目録記載の樹木の移植装置を販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金一六五万円及びこれに対する平成二年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙物件目録記載の樹木の移植装置を製造販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金一六五万円及びこれに対する平成二年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」という)につき専用実施権を有するところ、被告がこれを侵害する行為を行ったとして、被告に対し、専用実施権侵害行為の差止めと、侵害行為による損害賠償金の支払いを請求している事件である。

二  争いのない事実

1  大木國男(以下「大木」という)は、昭和六一年八月一五日、本件特許権の特許権者であった古川芳美(以下「古川」という)から本件特許権を譲り受け、同年一〇月二七日、特許原簿にその旨登録された。

2  大木は、被告の代表取締役であるところ、被告は、平成二年七月三一日、別紙物件目録記載の樹木の移植装置(以下「イ号物件」という)一台を建設機械販売会社から三三〇〇万円で購入し、その後、右装置を大木に、少なくとも三三〇〇万円以上で売却した。

3  イ号物件は、本件特許権の技術的範圏に属するものである。

三  争点

1  本件特許権について原告のための専用実施権設定の有無

(原告の主張)

原告は、昭和六一年一一月一八日、大木との間で、本件特許権につき、期間三年、実施料を樹木の抜き取りから植穴まで運ぶ工事代金の二〇パーセントとする独占的通常実施権の設定を受ける旨の契約を締結した。

その後昭和六二年三月四日に、原告は大木との間で、新たに本件特許権について、範囲全部、期間を無制限とする専用実施権の設定を受ける旨の契約を締結した(但し、契約書上は、契約締結日を昭和六一年一一月一八日とした。)。そして、昭和六二年四月二七日、原告名義の専用実施権設定登録がなされた。

(被告の反論)

原告と大木との間で独占的通常実施権設定契約を締結したことは認めるが、専用実施権設定契約を締結したことは否認する。専用実施権設定契約証書は偽造されたものである。

2  損害額

(原告の主張)

被告のイ号物件の販売については、原告は被告と実施契約を締結していれば少なくとも実施料を得られたはずであり、実施料相当の損害を受けたことになる。そして、その実施料率は、販売価格の五パーセントを下るものではない。

原告は、大木より本件特許権につき専用実施権の設定を受けているものであるが、その実施料は、イ号物件を使用して請け負った工事の請負出来高の二〇パーセントであることから考えても、イ号物件の売却に当たっての実施料は五パーセントを下るものではない。

よって、損害額は一六五万円となる。

三三〇〇万円×〇・〇五=一六五万円

(被告の反論)

原告の主張は否認し、争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠によると、次の各事実を認めることができる。

(一) 原告代表者は、昭和六一年八月ころ、大木が本件特許権を古川から譲り受けたことを知り、本件特許権につき原告のために実施権の設定を受けるため、大木との間で条件等の話し合いを行った。(甲三一、三二)

そして、原告代表者と大木は、昭和六一年一一月一八日、静岡県富士市内の弁護士事務所へ行き、弁護士から「独占通常実施権」の意味について説明を受けたうえで、本件特許権につき原告に対し左記内容の独占的通常実施権を設定する旨の契約を締結した(以下「本件通常実施権設定契約」という)。その後、右契約につき、公正証書も作成した。

範囲 本件特許権の範囲全部

実施料 本件特許を実施した製品を使用して請負った工事の請負出来高(抜取りから植穴まで運ぶ工事の請負出来高)の二〇パーセント

期間 三年。但し、両者協議のうえ三年ずつ同一条件をもって更新することができる。

(甲一三、一四、三一、三二、乙四〇の二、四一)

(二) その後、原告代表者は、特許庁へ行って、独占的通常実施権と専用実施権とは効力が異なることを教わった。また、大木から原告代表者に対し、同業者が本件特許権を侵害しているので、損害賠償を請求してほしいとの要望があったため、原告代表者は大木に対し、右同業者に対し損害賠償請求を行うためにも、本件通常実施権設定契約を期間の制限のない専用実施権設定契約に変更して、実施権設定登録手続をしてほしいと申し入れた。そして、原告代表者は右手続を弁理士資格のある東京都内の別の弁護士に依頼することとし、原告代表者と大木とは、昭和六二年三月四日右弁護士の事務所へ行き、昭和六一年一一月一八日付の専用実施権設定契約証書、右弁護士に対する原告及び大木の専用実施権設定登録手続に関する委任状を作成し、右弁護士に対し、それぞれ原告と大木の印鑑登録証明書を交付した。右専用実施権設定契約証書では、専用実施権の範囲が全部とされ、期間については特に制限されていなかった。右書類に基づいて、昭和六二年三月四日登録申請が行われ、同年四月二七日本件特許につき専用実施権設定登録(以下「本件専用実施権設定登録」という)がされた。(甲一、三、一〇、一一、一五、一六の一及び二、一七、三一、三二、三四、乙二、二四、四〇の一、四二)

(三) ところが、平成二年三月三〇日に大木が、申請審の原告名義部分を偽造して、専用実施権設定契約の解除を理由に本件専用実施権設定登録の抹消登録を申請し、同年五月二八日その登録がされたため、原告は大木に対し、専用実施権回復登録等請求訴訟(当庁平成二年(ワ)第八五一四号事件)を提起し、右訴訟については原告勝訴の判決が確定し、抹消された本件専用実施権設定登録につき、平成三年一二月一六日回復登録がなされた。(甲一、四、五、七ないし一〇、三四)

そこで今度は、大木が原告に対し、特許権専用実施権抹消登録手続請求訴訟(当庁平成四年(ワ)第二六〇一号事件。以下「前訴訟」という。)を提起したが、右訴訟においても大木の請求を棄却する判決が確定し、原告が勝訴した。(甲二〇、二八、乙一〇、四六、四七)

2  甲三二号証中には、大木の供述として、原告代表者との間で、本件通常実施権設定契約の内容を変更しようという趣旨の話し合いは行われたことはなく、昭和六二年三月四日、弁護士に、前記公正証書を添付して登録手続を行うように依頼した、その際、弁護士事務所で前記専用実施権設定契約証書は見ておらず、実印も押捺していない、その後訴訟になって初めて右書面を見た旨の部分がある。

しかしながら、右専用実施権設定契約証書に押捺された印鑑は、大木の実印であると認めることができ(甲三、一一、三三、乙二、二四、四〇の一)、更に、大木は、前訴訟の本人尋問において、昭和六二年三月四日、弁護士事務所で専用実施権という言葉が出たこと、弁護士事務所に実印を持参し、委任状に実印を押捺したことは認めており、また、弁護士に実印を渡したことはない旨供述している(甲三二)ことに、甲三一号証(前訴訟における本件原告代表者本人尋問調書)とあわせ考えると、前記大木の供述部分は信用することができない。

3  以上によると、原告代表者と大木との話し合いの結果、最終的に昭和六二年三月四日、原告と大木との間で、本件特許権につき、原告に対し、範囲全部、期間無制限とする専用実施権を設定する旨の契約が成立したと認めるのが相当である。

二  差止請求について

前記のとおり、原告には本件特許権につき専用実施権があると認められるところ、被告は業としてイ号物件を販売し、イ号物件は本件特許権の技術範囲に属することから、被告の行為は原告の右専用実施権の侵害行為に該当し、原告は、被告に対し、特許法一〇〇条に基づきその販売の差止めを請求することができる。

なお、被告がこれまでにイ号物件を製造し、または、製造するおそれがあると認めるに足りる証拠はなく、よって、その製造の差止請求については理由がない。

三  争点3について

右二の事実によれば、被告には原告の権利を侵害することにつき、過失があったものと推定される。

ところで、前記のとおり、被告はイ号物件一台を少なくとも三三〇〇万円以上で販売したところ、本件特許権の実施料率としては販売価格の五パーセン下が相当である(甲三〇の一ないし三)。したがって、被告の侵害行為に対する実施料相当額は一六五万円であり、原告は被告の不法行為により、右金額の損害を受けたと認められる(特許法一〇二条二項)。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 八木貴美子 裁判官 池田信彦)

物件目録

一、添付図面及び構造の説明記載の「樹木の移植装置」

1.構造の説明

樹木を受容可能な二軸方向の寸法を有して前端を開口し平面略コ字形状に形成したフレーム5と該フレームの左右両側下部に少なくともそれぞれが略垂直に下降させた開口位置から内側へ対向して略水平に閉鎖する位置の範囲で駆動回転可能に枢着したフォーク状の掘削兼担持用爪8と、上記両爪8を開閉駆動回転する油圧ジャッキ等の駆動機構11とから樹木の掘削兼搬送機2を構成し、ブルドーザ等による自走式主導機1の端部にはリンク機構と油圧ジャッキ等の昇降駆動機構14により上記掘削兼搬送機2を上下駆動可能に、かつ同主導機1上で昇降および掘削兼担持用爪8の開閉動作を制御可能に連結してなることを特徴とする樹木の移植装置。

2.図面の説明

第1図は本件「樹木移植装置」の全体側面図、第2図は使用状態を示す本件「移植装置」の正面図

3.図面の番号

1.自走式主導機

2.掘削兼搬送機

5.フレーム

8.掘削兼担持用爪

11.爪の駆動機構

13.リンク機構

14.掘削兼搬送機の昇降駆動機構

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

特許権目録

発明の名称 樹木の移植工法及びその装置

出願日 昭和五五年六月二七日

出願番号 特願昭五五-〇八七五〇九号

出願公告日 昭和五七年一一月二四日

出願公告番号 特公昭五七-〇五五三七一号

登録日 昭和五八年八月二六日

特許番号 第一一六五〇三一号

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